食事の目的は、生存の維持と拡大のために必要十分な栄養素を得ることである。食事で得る栄養素を基に、ヒトは活動エネルギー生成と身体の維持・成長のための素材を生産する。食物摂取が少なすぎても多すぎてもヒトの生命は危険に晒される。食料確保はヒトの進化を通じて重要事項であり、その活動は様々な文化を生み出してきた。健康であることは生存維持の必要条件であり、その根幹をなす食事は、ヒトの歴史の中で重要な関心事であり続けている。火の使用に始まる様々な調理方法の発達は、ヒトの栄養状態の改善に寄与してきた。そしてヒト社会が発展するにつれ、食事は単なる栄養摂取の範囲から逸脱し、食の美味しさに留まらず、見栄えや奇抜さが追求されるようにもなっている。

現代の食の在り様は、ヒトがその身体システムを発展させてきた数百万年から数十万年前のそれから激変している。現代社会では、自然状態の食物を摂る機会は減少しており、植物は管理された農場で栽培され、動物や魚介類も養殖により生産されているものが多い。さらに遺伝子操作により食材自体の改質も実用段階にある。また食物の加工技術の発展により、工場で食品が大量生産されるようになっている。このような人為的な食物は、保存性や味覚向上に加え利便性や経済効率性向上のために、人工化学物質が使用されることが多い。そして、これらの食物の中には健康上の懸念が指摘されているものがある。

食材生産や調理方法の進化に伴う食事情の変化はヒトの健康にとって、必ずしも良いことばかりではなく、悪化している部分もある。特にヒトの健康への影響が十分に把握されないまま採用されている、多様な化学物質や遺伝子組み換え操作などは要注意と言える。文明が提供する安楽な生活状態の下での現代の食事情と原始の環境に適応したヒトの身体システムとのミスマッチが、現代病と呼ばれる病態の一因とも思われる。また近年のヒトの長寿化に伴う新たな病態の顕在化もある。現代の長い生を通じて健康を維持していくことは、ヒトにとって新しい課題である。

ヒトは現代における生活環境と自らの身体システムにベストマッチする食事及び生活習慣の在り方について考察し、自分達の時代環境に適合する食形態を見極める必要がある。健康によい食事については従来から多くの研究や見解がある。ただし時代が進むと共に新しい知見が報告され、旧来の見解が覆される事態が繰返されてきた。このような経緯や人の身体システムの複雑さを勘案すると、近い将来に決定的な見解が出るとは言い難い。また、個人の体質差、生活環境の相違などを考慮すると、絶対的な健康法などは存在しないとも思われる。ヒトの健康は、暮らしている場所の環境、生活習慣からケースバイケースで、その個人に適した健康法が決まると考えるのが妥当である。そこで、過去に提案されている様々な健康法から、現在の情況に照らして良いと思われるものを抜粋し、それらを基に「健康に良い食事」を開発する。当然ながら、これは自らが属する生活環境が前提となる。まず以下に、「健康を維持するための食事の基本的指針」を示す。そして「その指針に従うことが健康増進に有意である」という考え(仮説)に基づいて研究を行う。

基本的指針を下記に書き出す。

1)食事は、タンパク質、脂肪、糖質の摂取比率、及び総摂取カロリー量に留意する、2)植物性食材を中心とし、適宜、魚介、肉類を摂る、3)ホールフードの形で摂る、4)ミネラル、フィトケミカル、ビタミン類を積極的に摂る、5)食物の生産過程に留意する、6)調理は自身で行う、7)人工化学物質を多く含むと思われる食品は避ける、8)血糖値スパイクを招く食物や食事法を回避する。さらに、食習慣として、1)定時に食事を摂る、2)よく噛んで食べる、3))昼食をメインの食事とする。

以上の項目は必ずしも健康に良いとの証明が成されている訳ではないが、個人的に良いと判断して実行するものである。そして長期に亘って健康状態の推移を調査し、仮説の検証を行うこととする。この仮説検証は継続的に行い、適宜、検証結果を纏めることとする。