ヒトの祖先は700万年前にチンパンジーから分岐したサヘラントロプス・チャデンシスである。この生物はホモ・サピエンス(現代人)の3割程度の脳容量(350~400cc)を持ち直立二足歩行を始めていた。一方で樹上生活にも適応していたが化石の足や骨盤の形状から、足の機能は物を掴むよりも歩行に適応していたと考えられている。彼らは森林環境に適応し、果実や植物を主に食べていた。サヘラントロプス・チャデンシスからアウストラロピテクス・アファレンシス、ホモ・エレクトス、ホモ・ハイデルベルゲンシスなどの形態を経て、数十万年前に現代のヒト(ホモ・サピエンス)へ進化した。
人類の直立二足歩行は、約360万年前から290万年前にかけて生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスにより確立された。二足歩行者としてよく知られる「ルーシー」もこの種に属しており、タンザニアのラエトリ遺跡で発見された足跡ものアウストラロピテクス・アファレンシスのものである。アウストラロピテクス属の足は、樹上生活と地上生活の中間段階にある特徴を持ち、人類の進化における重要な移行期を象徴している。その足の構造は、ホモ・サピエンスの足と似ているが、完全には同じではない。彼らの足指は、ホモ・サピエンスに比べて長く、より湾曲していることから、木登りの能力を保持していたと思われる。足のアーチはまだ十分に発達しておらず、長距離移動能力は高くなかったらしい。またアウストラロピテクス属の足の骨は現代人に比べて太く力強い構造であり、これは樹上と地上の両方での活動に対応するためと考えられる。アウストラロピテクス属では食性がより多様化し、植物だけでなく昆虫、小型動物、時には骨髄を摂取していた。
約250万から200万年前にホモ・ハビリス(Homo habilis)がアウストラロピテクス属から種分化したと考えられている。ハビリスはアウストラロピテクスよりも小さな臼歯と大きな脳を持っており、石と、おそらく動物の骨から道具を製造した。ハビリスが作った石器(オルドワン石器)は丸い石を打ち欠いて鋭い端を作った非常にシンプルな道具であり、約250万年前から180万年前にかけて使用されていた。
ホモ・エレクトスはホモ・ハビリスの進化形として約200万年前に出現した。ホモ・エレクトスは、より高度な石器を作り、火の使用を始めた。火の使用で食物消化が容易になったことで腸が短縮し、また栄養吸収効率が向上したことが脳の拡大を可能にしたと思われる。ヒトの脳容量は、ホモ・エレクトス時代を通じて約600から1100㏄に増加し、身体構造もホモ・サピエンスに近づいた。エレクトスはヒトの祖先として初めて出アフリカを果たし、ユーラシア大陸に広がった。その子孫がジャワ原人や北京原人である。ホモ・エレクトスは 約150万年前からより高度な石器(アシュール石器)を作り始めた。特に「ハンドアックス」と呼ばれる両面加工された石器を作り、動物の解体や木材の加工などに使用した。アシュール石器の製作には計画的な作業が必要であるため、この石器はホモ・エレクトスの認知能力の向上を示す重要な証拠とされている。またアシュール石器は、アフリカだけでなくユーラシアにも広がっており、ホモ・エレクトスの移動と文化の発展を示すものとなっている。集団内の意思疎通のため、言語の原型もホモ・エレクトス時代に発生したと思われる。ホモ・エレクトスは火の利用を始めたことで調理が可能になり、より幅広い食物を安全に摂取できるようになった。また肉食の割合が増加し、狩猟が重要な食料調達方法となったと考えられている。
70万年より前に、ホモ・エレクトスからホモ・ハイデルベルゲンシスが分岐した。この種は約40万年前までにヨーロッパへ進出し、この種からホモ・ネアンデルタールが分岐した。ネアンデルタールは約30万年前から3万年前ごろまで生存していたと考えられる。ネアンデルタール時代は、肉食が主要な食性の一部となり大型動物の狩猟が行われた。同時に、地域によっては植物性食物も取り入れていた。
ホモ・サピエンスは約20万年前にアフリカに現れ、10万年前頃から数次にわたってアフリカからの拡散を始め、2万年前ごろには大きく環境が異なる地球上のほとんどの土地に進出した。その過程で、各地の先住民である旧人類(ネアンデルタール人、デニソワ人等)と交雑したと思われる。これはアフリカ外のヒトが数パーセントのネアンデルタール遺伝子を持っていることから裏付けられる。
ホモ・サピエンスが異なる環境の土地に短期間で適応できたのは、進化の過程で発達させてきた文化の力による。極地の寒冷気候は衣服と火を用いた暖房で凌ぎ、石器に始まる様々な道具を発明して貧弱な身体能力を補った。約1万年前、穀物や野菜などの栽培が始まりヒトの食性は劇的に変化した。さらに技術や文化の進化に伴い食物の種類は増え続け、現代では加工食品や高カロリー食品も普及している。農耕が発達したことで食料供給が安定し、人口が急増し社会の分業体制が成立した。狩猟採集時代には20から50人程度であったヒト集団の規模は1万年前頃には数千人規模にまで拡大し、集団規模の拡大と分業の深化は文化の発展を加速させ、現代のヒトは地球上の最強生物になっている。